何も書かれていない事と近しいのに

詩が書けなくなったから

写真を撮るようになったんです

感じたことを残さなくてもいいように

 

言葉が見つからないから

歌を歌うようになったんです

意味に足元をすくわれないように

 

忘れるために思い出しています

あなたの鼻歌、振り返った夕日のこと

もう、何度も、

忘れる必要がないように

 

 

(日々の生活で、詩だとされるもの、詩集だとされるものがたまに嫌になる。詩とは、今目の前で揺れている時間や空気。パッケージされたものだけではなくて、開かれたもの。ひらひらと宙を舞っているもの。

コンビニの蛍光灯や、出勤時のおはようございますや、振込み金額だとか折込チラシ、友達との約束、来月の予定、ストーブの匂い、硬貨の冷たさ、布団の中でみた顔や、夕日。海。

今目の前で、起こる全てが詩だと思うから。

身体に残ってしまって、目の前から消えて、いつの間にか僕の身体からも消えて、気づいたらあなたの中へと残ってしまった、その何か)

 

これが、僕の詩です。

と、ポケットから僕は手を差し出す。

 

(あなたがいなければ、

何も書かれていない事と近しいのに)