栞と文庫
栞ほどの悲しみを
文庫本ほどの幸福に
挟みながら暮らす
幸福を読み始めるごとに
悲しみを抜き取る
その栞をなくしてまうと、
どこまで読んだか分からなくる
残りの幸福の時間を時々見失う
幸せはいつもポケットに入っている
君と半分にする予定の饅頭や
帰りがけに渡すべく用意した便箋
夕焼けをアテに吸うための青い煙草
日常を愛するための、ひとつの詩集
幸せは手で掴める大きさが心地よい
そして、
そこに悲しみを忍ばせておくがいい
甘さに含まれた苦味があった
見えない文字で書かれた言葉があった
明日昇らないことを祈った夕日があった
愛せない者たちの声が耳元に響いていた
乾いた風が吹くたびに
私は何かを掴んでは、何かを離してしまった
「現在」と書かれた頁を見失わないために
私は「悲しみ」という栞のありかを、
また探している。