古本潜水

 

夜、僕は扉を開ける

夜、僕は窓を開ける

電気をつける  ラジオの周波数をなでる

 

本たちは今日も棚のなかで眠っている

にもかかわらず僕は起こしてしまうのだ

彼らが子なら、僕は布団をはぐ親だろうか

可愛い本には旅をさせろ、と言ったりか

 

23時開店。

「夜」という海に

今日も一隻の古本屋が浮上した。

 

ひとりの旅人がきた、ひとりの少女がいた、

酔っ払いの哲学者がいた、公務員がいた、

無職がいた、労働者がいた、日焼けの男がいた

無数の恋人たちと、求婚者と求道者がいた、

 

ひとりとひとりがいて、

ふたりがひとつになり、

さんにんに変わっていく。

 

昔の自分がいて、本屋がいた。

夏が去り、秋が微笑み、

冬眠り、春が目を覚ます。

 

いつのまにか

手渡したものよりも

託されたものが増えていた

 

 

言葉を交わしてでしか見つからないものがある

(言葉を交わしながら隠した時間もあった)

言葉を交わさず見つかるものもある

(言葉を閉じ込めながら触れた視線も)

 

時々、人は本に見つめられているのだ

本に読まれているのかもしれない

ぼくたちの生活も一冊の本だとすれば

古本屋は何円で買い取るのだろう?

 

と、僕は今日も言葉を泳ぎながら

月をかじり、夜をめくっている

 

 

27時閉店。

「朝」という海へ

今日も一隻の古本屋が沈みゆく