店、開けずとも(防空壕における読書のすすめ)

久しぶりのブログ更新。

店臨時休業中のダメ店主です。

 

今週月曜の朝、というより未明。

右眼に激痛が走り、起きて見てみると赤く充血。どうやら、やばそうだとすぐさま病院で診てもらうと、思ったよりもひどかったようで.「角膜潰瘍」というものになったらしい。

眼の異物感、光の刺激を強く感じ、涙が止まらなくなったりする。コンタクトの不衛生な使用が原因。心当たりがずばりとあるので、いやはや情けない。

 

このまま進行してしまうと、最悪失明。

よくなっても視力障害が残るかもしれないという。最初診てもらった先生がやけに、怖い声で「酷いですのでね。頑張りましょう」と声をかけられたしまった。

第一に、ため息。第二に、見えなくなっちまったらそれはそれとして。独眼竜古本屋店主としてやっていくしかないか、という諦め。

樹木希林のモノマネの習得、眼帯キャラクターの研究に勤しむかという、諦めゆえの前向き。

 

現在は実家にこもり、ひたすら目薬をさしつつ休養をとっている。その甲斐あってか、最初よりはいくばかり良くなってきた気もする。

ただ、すぐには良くもならないので様子を見つつ無理をしないことを心がけるしかない。

今週の土日には店を開けようかとは思う。

無理はしない。というよりできない。

酒も飲めない。飲みたいのだけれど。

 

 

時間は悲しいほどあるので、なんとはなしにツイッターを眺める。

件のウィルス関連に対する、情報、感情に溢れ、しばらくするとこれはやっぱり面白くもない。どうも、顔が見えない暗い。仕方ないと言えばそれまで。僕も、きっと、同じだ。高みの見物とはいかない。

自宅から外出しないようにという呟きを見ながら、暮らしでの細やかでくだらない呟きを見ながら、少し古本屋店主(若輩)らしいこともしてみたくなる。「こんな時だからこそ、読書を」と一口にいっても、普段読みなれている方ならいざ知らず。あまり本読まないんだけどもね、という方向けに少しばかりの本紹介でもしようかしらんと思ったりする。店を開けれない店主の暇つぶし、悪あがきと言われればそれまで。ただ、この状況を良くしなきゃ、何かをしないといけない。というのはどうも違う気もしているので、なるべく慎重に。いつもの、あなたを忘れないで。これは、僕の暇つぶしだから、付き合わなくてもいい。付き合ってくださるのなら、温かいお茶を飲みつつ聞き流して。

 

 

なるべく安く、手軽に手に入りそうなもの。

読んで難しくないもの。あまりに知られているし、あえて僕がおすすめしなくとも、みんなが知っている作家が多い。

それは僕の読書量の貧弱さから来るものなので、許してほしい。けれど、本の楽しみ方については独りよがり的にやってきたつもりだから、試食のつもりで。

 

 

①旅すること

沢木耕太郎

深夜特急」全6巻 新潮文庫

椎名誠 

パタゴニア あるいは空とタンポポの物語」

集英社文庫

「怪しい探検隊シリーズ」角川文庫

 

「深夜」はバックパッカーのバイブルと言われるほど有名なので、あまり僕が解説をしても意味がない。旅行に出れないのだから、気分だけどもという趣向なのでシンプルなおすすめなのだけれど、沢木耕太郎の文章力に引っ張られながらユーラシアを旅するのは心地がいい。第1巻、「香港、マカオ編」での「大小」という博打のシーンはよく覚えている。僕は中学生の時に、二段ベッドで夢中になって読み旅をした満足感を得た。そのためか、未だに海外に行ったことがない。

椎名誠の怪しい探検隊シリーズは「焚き火、ビール、ガハハ」「川、海、山、野宿、民宿、ビール、ガハハ」.といった能天気さが心地いい。

心の奥底からほんのりと温まる。麦酒を買ってきて、読むのをおすすめする。

パタゴニア」は椎名誠にしては、少し暗いスタートで始まる。家庭でのちぐはぐした不協和音、その中での旅の始まり。ただ、本に収められた文章、パタゴニアの風景写真は、中学生の僕に強い印象を残している。今読んでも色あせない。パタゴニアにはいつか行きたい。たぶん、そのいつかは来ない。

 

②怠けること

荻原魚雷

「本と怠け者」ちくま文庫

「書生の処世」本の雑誌社

 

梅崎春生

「怠惰の美徳」中公文庫

 

僕が怠けることに、なんのためらいも恥じらいもなく、堂々することができたのは荻原魚雷さんの随筆本に出会えたことが大きい。

 

「借家に住み、あまり働かず、日中はたいていごろごろしている。古書店めぐりをすませたあとは、なじみの高円寺酒場で一杯。」

-「本と怠け者」裏表紙あらすじより

 

この一文でもう最高じゃないか。

いっぱい働きたくない、飢え死にしない程度に稼ぎたい。本を読んで、酒を飲めたら、それでいい。たゆたえでも、沈まない暮らし。前向きというよりかは、下向きな生き方なのだけれど、今怠けていることに引き目を感じている人におすすめしたい作家。

そんな荻原魚雷さんが編者になっている「怠惰の美徳」は梅崎春生ナマケモノ随筆集となっている。読んでいてもくつくつと笑いが止まらない。あわせて、どうぞ。

 

③嫌いとは言わずに...

 

村上春樹 初期三部作

風の歌を聴け

1973年のピンボール

羊をめぐる冒険

講談社文庫

 

短編作品集

パン屋再襲撃

中国行きのスロウ・ボート」中公文庫

カンガルー日和

 

村上春樹、読んで嫌いな人は流していただければ。まだ読んだことがなく、気になっている方向けに。素直にデビュー作「風の歌を」から始まる初期三部作を続けて読むことをおすすめする。

 

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」

こんな一文から始まることに、どきっとする、

 

部屋にいながらにして、潮の香り、あるいは北海道の山小屋の冷たさ、BARで喧騒、夏の孤独を味わうことができると思う。「羊をめぐる冒険」のラストシーンはいま読んでも、ぐっとくる。この時も是非、缶ビールを買って横に置いておいてほしい。

 

軽めに読み始めたい方は、短編作品集がおすすめ。学生時代の僕は「パン屋再襲撃」を読むためだけに、深夜マクドナルドに行きチープな味のハンバーガーをもぐもぐ食べた(何故マクドナルドかは作品を読んでいただけたら分かる)

「中国行きのスロウボート」、安西水丸さんの装画がお洒落で持っているだけで楽しくなる。

そこに収められた「午後の最後の芝生」は、若い人はなんとはなしに好きなのでは思う。

 

 

まだまだ、書きたいのだけれど眠らなくてはいけないので今日はこのあたりにしておく。

無理はしない、というよりできない。

 

僕の希望は、

店、開けれずとも古本屋をしていたい。

店舗がなくとも、本がいま手元になくとも、

本を売りたい、届けたい。

あと、酒を飲みたい。

あわよくば、君と。

 

また、会いましょう。